はじめに
普段、私たちが建物の中で必ずといっていいほど目にする 「非常口」 の表示。緑色の背景に白い人が走っているピクトグラムは、日本だけでなく多くの国で見られます。
しかし、なぜ非常口は赤ではなく 緑 なのでしょうか? 危険を知らせる色といえば「赤」を連想する人も多いはずです。
本記事では、非常口が緑色である理由を 色彩心理・安全設計・国際基準 などの視点からわかりやすく解説し、さらにデザインの歴史や各国の違い、設置基準や隠れた豆知識まで掘り下げます。
非常口の色が緑である理由
1. 色彩心理の観点
色は人の感情や行動に大きな影響を与えます。
- 赤 … 危険・警告・禁止を連想させ、強く注意を引く
- 緑 … 安全・安心・進行を連想させ、落ち着きを与える
非常口の役割は「危険を知らせる」ことではなく、 「安全な出口へ導く」 こと。そのため、安心して向かえる色である緑が採用されています。さらに緑は視覚的に心拍数や血圧を安定させる効果もあるとされ、避難時のパニックを和らげる役割も果たします。
この色彩効果は、交通信号や鉄道の進行信号でも活用されています。人は日常生活で「緑=進め」という学習をしているため、非常時にも直感的に進行方向を理解できるのです。
2. 国際規格に基づいた色選び
国際標準化機構(ISO)や国際電気標準会議(IEC)では、安全を示すサインは 緑色 と定められています。
背景に緑、図柄に白という配色は、世界中の異なる文化圏でも直感的に理解されやすく、色覚特性が異なる人にも比較的識別しやすい組み合わせです。また、緑は光の波長的に視認性が高く、暗所でも見やすいため、停電や煙が発生した際にも有効です。
3. 赤ではなく緑にするメリット
もし非常口が赤色だった場合…
- 消火器や火災報知器の赤色と混同しやすい
- 「危険がある場所」と誤解される
- 緊張感を増幅し、冷静な行動を妨げる可能性がある
このような理由から、危険を連想させず、進むべき方向を示す 緑 が最適とされています。
日本における非常口デザインの変遷
ピクトグラム導入以前
昭和40年代、日本で非常口表示が整備され始めた当初は、単に「非常口」と赤や黒で書かれた文字だけでした。しかし、文字だけでは外国人や子どもには理解しづらいという課題があり、国際化の進展とともに改善が求められました。
走る人マークの誕生
1982年、グラフィックデザイナー 太田幸夫氏 がデザインした「走る人」のピクトグラムが採用されます。緑色の背景に白い人が出口に向かう姿は、言語や文化を超えて直感的に理解できるデザインとして高く評価され、国際的にも“running man”として広く知られるようになりました。
このピクトグラムは、避難方向を矢印で明示できるバリエーションもあり、複雑な建物や大型施設でも的確な誘導を可能にしています。
世界の非常口表示
欧州・アジア
多くの国がISO規格に沿った 緑背景+白ピクトグラム を採用。イギリス・ドイツ・中国・韓国などでもほぼ同じデザインが使われています。
アメリカ
赤色や緑色の文字で EXIT と表示するタイプが多く、必ずしもピクトグラムではありません。これは消防規則や建築基準の違いによるもので、照明色や点灯方式も州によって異なります。
その他の地域
一部の国では文化的背景により青や赤を使用する例もありますが、近年は国際基準に合わせて緑への移行が進んでいます。
非常口の色と安全心理
避難時の心理状態に配慮
災害時、人は強いストレスや恐怖心にさらされます。このとき赤は緊張や混乱を増幅させますが、緑は安心感を与え、「ここに向かえば安全」という意識を持たせます。さらに、交通信号と同じ「進め」の色でもあるため、直感的に避難方向を理解できます。
視認性の高さ
- 人間の目は緑系の波長に対して感度が高い
- 暗所や煙の中でも比較的見やすい
- 白色LEDとの組み合わせでコントラストが明確
こうした特徴は、煙が充満した低視界の状況下でも、非常口サインを迅速に見つけ出す助けとなります。
非常口の豆知識
- 日本の非常口マークは海外では “running man” として有名で、国際的な安全デザインの成功例として紹介されます。
- 一部の国では文化的背景により赤や青を使う例もありますが、近年はISO規格の普及で緑が主流に。
- サインの色やデザインだけでなく、設置高さ・明るさ・停電時の点灯時間も厳密に規定されています。
- 実は非常口サインはLED化が進んでおり、省エネ性能や長寿命化も実現しています。
まとめ
非常口が緑色であるのは、人間の心理・国際的な安全規格・混乱回避 という複数の理由が絡み合っています。
次に非常口を見かけたら、その緑色に込められた意味と、そこに至るまでの長い歴史や工夫を少し思い出してみてください。